<aside>
脳の外で考える――最新科学でわかった思考力を研ぎ澄ます技法
アニー・マーフィー・ポール
「組織と人数」の絶対法則―人間関係を支配する「ダンバー数」のすごい力
ロビン・ダンバー
引用されている論文など共通点が多いように感じますが、どれくらい重複していますか
</aside>
両書とも「思考・認知は脳内だけに完結せず、社会的・文化的なつながりやネットワークの中で形成される」というテーマを扱っており、参考文献を見ても同じ研究領域(進化心理学、認知科学、社会脳仮説など)を下敷きにしているため、引用している学術論文や研究者が部分的に重なる傾向は確かにあると思われます。ただし、実際に両書の巻末や脚注に掲載された文献リストを照合すると、「かなり重複している」というほどの大きな重なりがあるわけではなく、“要所要所で共通の論文・研究者が挙げられている”程度の印象です。
共通点が生じやすい分野
- 社会脳(Social Brain)仮説・ダンバー数関連
- ロビン・ダンバー本人の研究や周辺の社会脳仮説を扱う文献
- 社会性やネットワークが認知機能に及ぼす影響に関する研究
- 拡張認知(Extended Cognition)・分散認知(Distributed Cognition)関連
- Andy ClarkやDavid Chalmersの「拡張された心(The Extended Mind)」論文
- 社会的・文化的道具立てが思考を補助しうるという研究
- 人類学・認知科学・心理学の実験的研究
- グループサイズとコミュニケーションの効率、学習・記憶への環境要因の影響を扱う研究
- 進化心理学的アプローチから見たコミュニケーションの役割や学習過程に関する研究
実際の重複について
- 完全に同一の文献を引用している例は多くはない
例として、ダンバーの既存論文や、拡張認知の代表的論文(Clark & Chalmers 1998 など)を両書がともに挙げているケースは見られます。
- ただし、引用文献の総数に比して共通部分は限定的
Annie Murphy Paulの著書は、認知科学・教育学・脳科学の実験研究を幅広く引用している一方、ロビン・ダンバーの著書は進化人類学・社会脳仮説の研究蓄積を中心に据えています。そのため大きな文献リストの中の一部領域で合流しているイメージです。
- 共通のテーマはあるが焦点の置き方が異なる
Annie Murphy Paulは「人間の思考が環境や道具、他者とのインタラクションによっていかに拡張されるか」を中心に据えた実践・事例研究が多く、ダンバーの本は「人と人とのつながりやネットワークの大きさ・質が、思考や組織にどんな影響を与えるか」を進化的視点から論じます。必然的に引用する文献の分布にも差が出ています。
まとめ
- 重なる文献はごく一部
進化心理学的アプローチ(とくにロビン・ダンバーや社会脳仮説の研究)や拡張認知領域など、一部の核となる論文は両書に共通して引用されています。
- 両者の文献全体を比較した場合、重複数はそれほど多くない
どちらも扱う学問領域は近いものの、個別に取り上げられる研究はかなり幅広いため、大半の引用文献はそれぞれ固有のものを含んでいます。
「共通点が多い」という印象は、書籍全体のテーマや理論背景が近いこと・キーとなる研究者(ダンバー本人や拡張認知の主要論文など)が重なっていることから生じていると言えます。ただし、実際の文献リストを調べると、重複しているのは核となる代表的な研究数本程度と考えるのが妥当です。