事業会社によるM&A実施後、企業の現場ではどのような経営が求められ、どうすれば異なる組織同士を融合させることができるのだろうか。これらの点はM&Aの最終的な成否を決める重要なポイントであるにもかかわらず、表立って語られることはほとんどない。
株式会社ユーザベースが運営する「SPEEDA」はM&A、新規事業、ベンチャー投資などをテーマとするイベント「SPEEDA Conference」にて、同分野のトップランナーであるJT(日本たばこ産業)の新貝康司氏とIndeedの出木場久征氏をゲストに迎え、セミナーを開催した。その様子を5日連続でリポートする。
※日本の時価総額トップ100社中4割に導入されるSPEEDAの詳細はこちら
リクルートの出木場(いでこば)久征です。インターネット分野が専門で、これまでは旅行情報サービス「じゃらん」や、美容情報サービス「ホットペッパービューティー」などで、紙媒体からネットサービスへの転換を担当してきました。
2012年からアメリカのテキサス州に移住し、求人検索の会社IndeedのCEOとして働いています。今日はリクルートがIndeedを買収した件についてお話しします。
ご存じのように、リクルートは結婚や住宅、旅行などの「販促系メディア」、求人情報などの「人材メディア」、そして「人材派遣業」と大きく分けて3つのビジネスで運営しています。「ユーザーと企業のマッチング」が共通のビジネスモデルです。2014年10月に上場し、2015年の売り上げは約1兆5800億円の業績です。
皆さんは、リクルートが海外事業をしているイメージは浮かばないかもしれません。実際に2008年まで、海外事業の売上比率は数%程度でした。しかし2015年度には3割超となり、直近では約4割まで拡大しつつあります。海外事業は今や、リクルートの成長戦略の柱の1つとなっています。
では海外事業の1つであるIndeedについて紹介します。Indeedは求人の検索エンジンです。求人サイトではなく、求人サイトを検索するためのドライブです。
世の中にはたくさんの求人サイトがあります。例えばリクナビネクストにはA社の情報が載っていたけど、他のサイトにはB社の情報があってA社のは載っていなかった……とサイトによって掲載される情報は異なります。さらに求人サイトには載せず自社ホームページで採用情報を掲載する会社もある。
就職や転職は大事なことですからなるべく多くの情報を見たい。でも、あのサイトとこのサイトを見て企業サイトも見て……というのは結構大変だったりします。
そこで、それら求人に関する情報のすべてを一気に、Googleの検索結果のように表示する検索エンジンがIndeedで、2004年にアメリカで創業しました。
小規模でスタートしたIndeedですが、サービス内容がいいと思ったので、2012年にリクルートが買収しました。しっかり投資をすることで成長の速度を上げ、アメリカの外にも展開。現地でもスタッフを採用し、2012年に350人だった従業員数が、2016年は3500人にまでなりました。現在は28言語、60カ国以上で展開しています。
サービス利用率は、アメリカはもちろん、イギリス、フランス、ドイツなどのヨーロッパ各国、ブラジルや南アフリカなど、世界中の様々な国で1位になっています。アメリカでは、転職者の58%がIndeed経由で転職情報を見つけたというデータもあります。
また買収前の経営陣は、自己都合で退職した2人を除き、今も全員、経営に残っています。これはアメリカでは奇跡的なこととして驚かれます。
とくに、ロニー・カハンという創業者がいるのですが、彼はこの3年、サンクスギビングに私を招いて七面鳥を振る舞ってくれています。サンクスギビングは日本の正月のようなもので、この時を一緒に過ごすのは家族かよほど仲のいい友人です。彼は人間的にも親友と思える人で、一緒に経営を楽しむことができています。
IndeedはうまくいったM&Aのケースと言えると思っています。その経験を踏まえ、私が考える「成功しやすいM&A」についてお話しします。