抽象のハシゴ、推論のハシゴのつながりで
皆さんは、何か物事を判断するとき、合理的に判断できていますか? 人は何かを判断するときに、普通は合理的に判断しようとします。
ただ、それが合理的かどうかを判断するには、より多くの情報を集め、状況を把握し、意思決定しなければいけません。
しかし、人が合理的に判断することは実は不可能なのです。なぜなら、今まで自分が積み重ねてきた経験や知識をもとにそれが合理的かどうかを勝手に自己判断してしまうからです。あくまで自己判断なので、客観的にみてそれが合理的かどうかは分かりません。
それはサイコロのように、自分の方から見えた面しか見えず、残りの面が見えないのと同じです。数ある情報の中から一部だけを切り取り、その面だけを見て、判断してしまうのです。
このような判断をするときに無意識に使ってしまう思考プロセスのことを「推論のはしご」といいます。どうすれば人は思い込みを外し、より合理的で客観的な判断が下せるようになるのかを今回は紹介していきたいと思います。
皆さんは、相手と意見が対立したとき、どのような反応をする傾向があるでしょうか。
「推論のはしご」とは、人がどのような事実や事象、情報から、どのような推理・推論を行い、最終的な意見や結論に行きついたのか、そのプロセスのことを言います。
そのプロセスがはしごを登ることに似ていることからそう呼ばれています。
「推論のはしご」という言葉は、ハーバードビジネススクールの名誉教授であるクリス・アージリスによって提唱され、ピーター・センゲ他著『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」(The Fifth Discipline Fieldbook)』の中で「メンタルモデル」として紹介されたことで広まりました。
「メンタルモデル」とは、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したもののことを指します。
例えば、東の空から朝日が出ているのを見て、今後その太陽が南、西の方に移動していくことを予想します。それは単なる予想ではなく、太陽が東から出て西に沈むことを知識として、体験として知っているからです。
私たちは様々な事象について、そのモデルをつくることによって、「こうなったら、ああなる」と、その働きや作用についてイメージします。その頭の中で形成されるモデルがメンタルモデルです。
メンタルモデルは、さきほどの太陽の事例のような自然事象に対してだけではなく、社会や生活の中での事象にも使っています。